新版・竹取物語
室伏信助訳注
角川ソフィア文庫
古い作品だが意外にモダン
お馴染みの『竹取物語』。お馴染みだが原文を読んだって人はごく少数派だろう。本書は『竹取物語』の原文が収録された古典文庫である。古典といっても『竹取物語』は、せいぜい文庫本で60ページ程度の短編であるため、実際に読んでみるとそれほど苦にならない。なにしろ、この文庫には、注に加えて、現代語訳も付いている。どうしても古文が読めないという人は現代語訳を読んだらよろしい。だが、古文といっても日本語なんで、意外に読めるものである。
最初にすべての原文(欄外に脚注あり)と補注、それに続いて現代語訳という構成で、それでも120ページ程度に過ぎない。短すぎるためか、その後に解説がなんと30ページ、さらにその後に参考文献が20ページ近くに渡って収録されている。「参考文献」の節はなかなか奮っていて、古典作品(たとえば『源氏物語』や『今昔物語』など)で『竹取物語』が引用されている箇所が紹介されている。しかもそれについての解説は「解説」の節でかなり詳細に説明されていて、この「解説」も内容が学術書風で、単独で出されていてもそれなりに価値がありそうである。しかも最後の最後には、古語の索引まで付いている。薄い文庫本だが、至れり尽くせりの感がある。
『竹取物語』の内容だが、頑固なかぐや姫、求婚者とかぐや姫の間の取次でてんてこ舞いの翁(かぐや姫の養父、讃岐の造)などがうまく描写されていて、想像以上によくできている。特に翁は最後のあたりになると非常に興奮して、月から来る迎えの人々をとっ捕まえて尻をみんなに見せて恥をかかせてやるなどということまで言い出す始末で、しかもそれをかぐや姫にたしなめられたりするのである。かぐや姫に無理難題を課せられた求婚者たちの行動もいろいろ(ズルをする奴もいるし、大陸の商人に頼む者もある)で、ここらあたりも読みどころである。全体的に小説としての作りはハイレベルに思え、かなりモダンな感じもする。とは言うものの、かぐや姫の性格が少々支離滅裂な印象で、そのあたりが僕にとって難ありであった。ただしかぐや姫のキャラクター自体は非常に面白いと思う。いずれにしても、得るところが非常に多い古典作品である。さすが「物語の出で来はじめの祖」(『源氏物語』)である。