梅沢本 古本説話集

川口久雄校訂
岩波文庫

研究者以外にはオヨビでない本
『今昔』か『宇治拾遺』を読む方が良かろう

 平安時代末期に集められた(と校訂者は見ている)説話集で、昭和18年に世に出たものらしい。題名の『古本説話集』はその際に国立博物館の研究者によって命名されたらしい(原本には「今昔物語」という題がついていた)。ちなみにその発見された本はその後国宝に指定されている。梅澤彦太郎という人が所有しているため「梅沢本」と呼ばれている。

 この梅沢本、上下巻構成になっており、全部で70話の説話が収められた説話集だが、そのうちの40話が『今昔物語集』と共通、23話が『宇治拾遺物語』と共通の話になっているなど、70話のうちかなりの部分が他の説話集に収録されている。また信貴山や関寺の縁起譚などが入っているなどということころから類推すると、元々、独立した書物ではなく、私家版ダイジェスト集みたいなものだったのではないかとも考えられる(少なくとも僕にはそう思える)。オリジナルと言える話は少ない。

 上巻は世俗説話で、藤原公任や和泉式部など歌詠みのエピソードが集められている。一方、下巻は仏教説話で、仏に一生懸命お願いしたら御利益があったという類の話が多い。わらしべ長者の話なども収録されている。ちなみにわらしべ長者の話は、『今昔』にも『宇治拾遺』にも入っている。そういうわけで、この『古本説話集』、『今昔』や『宇治拾遺』をさしおいて、わざわざ読むほどの価値がある本とは思えない。

 今回購入した岩波文庫版は、元々1955年に初版が出版され、絶版を経て最近復刻されたもので、その話を聞いたために喜んで買ったのだが、正直言ってあまり得るところはなかった。また、誤りと考えられる部分を含め、原文をほぼそのまま収録しているため、原点に触れられるという点で研究対象としては良いだろうが、普通に読書する分には、読みづらいことこの上ない。下部に注があり、解説めいたことを校訂者が少しだけ書いているが、記述が誤りであることを指摘する程度で、古語などの言葉についての解説は皆無である。このあたりも読みづらさに拍車をかけている。はなはだ読みづらいため、研究者以外にとって、この岩波文庫版は価値のある本ではないと思う。絶版になっていたのも頷けるような気がする。

-古文-
本の紹介『宇治拾遺物語』
-マンガ-
本の紹介『コミックストーリー 日本霊異記』
-マンガ-
本の紹介『漫画・日本霊異記』
-古文-
本の紹介『新版・竹取物語』
-古文-
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス 雨月物語』
-古文-
本の紹介『世間胸算用』