まんがで読破 クラウゼヴィッツ・作 戦争論

クラウゼヴィッツ原作、バラエティ・アートワークス作画
イースト・プレス

単なる学習マンガだが『戦争論』は珍しい

 「まんがで読破」というシリーズの1作で、なんとクラウゼヴィッツの『戦争論』をマンガ化しようという試み。このシリーズ、なかなか読めないような古典的著作をマンガ化して、誰でも手軽にアプローチできるようにしようという主旨で、『資本論』や『般若心経』なども収録されている。確かにこういった著作を読むなんてことは普通の人にはまずないと思われるので、有意義な企画と言える。ただし芥川龍之介の『羅生門』や太宰治の『人間失格』まで収められているのは少々疑問。こういうのは、大した労力じゃないんだから原作(というのもなんだかヘンな感じではあるが)小説で読めよと思う。第一『羅生門』なんてそもそもが短編小説じゃないか!などとも考えたりするが、全体的になかなか面白いラインナップで興味が惹かれる。

 僕は基本的に小説の類は、ドラマや映画などの映像で見たいと思っているような人間で、読書の時間は小説ではなくノンフィクションに割きたいと思っているため、このシリーズの主旨には基本的に賛成なんだが、ただしそれは翻案の質が高いというのが条件になる。へまな映画化・ドラマ化作品だったら端から見ない方が良いとさえ思う。そこら辺がちょっと難しいところで、へまなものに手を出したら、結果的に原作の価値を享受する機会を失ってしまうことになる。したがって、翻案ものの選択にはよほど注意が必要になる。

 で、このイースト・プレスの企画だが、実はどの作品もマンガ化した作者の名前が載っていないと来ている。つまり、どの程度のグレードかを作者から推測することができない。この点が、中央公論社の『マンガ日本の古典』シリーズなどと比べると信頼性を欠く原因になる。実際今回数冊買って読んでみたんだが、マンガの質自体は悪くはないにしても、マンガ自体の面白さもない。単に原作のダイジェストをマンガ風に描き起こしましたというようなもので、マンガ自体について評価するとかどうとかいうレベルではないと感じた。率直に言ってしまえば「学習マンガ」である。

 ただたとえ「学習マンガ」であっても、決して読むことがないだろうと思われる著作を、読みやすい形にして提示したことは十分評価に値するんで、内容がそこそこのできで、同時に原作をある程度きっちりと反映していればヨシとすべきではないかとも思うわけだ。その点、この『戦争論』については割合よくできているんじゃないかと思う。もちろん原作は読んでいないが、過不足なく描かれているという印象である。また、クラウゼヴィッツが『戦争論』を書いた背景などもきちんと説明されているし、そういう点でも大変わかりやすい。だが正直言ってあまり面白くない。原作に原因があるのかマンガに原因があるのかにわかに判断できないが(おそらく原作なんだろうが)、結局のところ、時間をかけて原作の大著に挑戦しなくて良かった…というのが率直な感想であった。この程度の内容だったらダイジェストで十分であり、おそらく僕の残りの人生で『戦争論』を読むことはあるまいと確信したのだった。そういう意味では有益なマンガだったかも知れない。少なくとも『戦争論』がどういう種類の本で、どういうことを書いている本かは理解できた。

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