日本列島四万年のディープヒストリー
先史考古学からみた現代
森先一貴著
朝日選書
考古学の知見を知りたかっただけなのに
考古学者による「日本列島4万年史」。
第Ⅰ部から第Ⅳ部までの4部構成になっていて、10ページほどで構成される小論17本が、この4部に分けて配置されている。第Ⅰ部が「歴史と起源」、第Ⅱ部が「環境と適応」、第Ⅲ部が「身体と行動」、第Ⅳ部が「社会と観念」となっている。
特に第Ⅰ部と第Ⅱ部には、最新の考古学的な知見が散りばめられていてなかなか興味深かった。たとえば日本列島の遺跡には、ヨーロッパの歴史区分である旧石器時代/新石器時代という区分が必ずしも当てはまらないこと(「旧石器時代」でも磨製石器が使われている)や、土器についても世界最古(1万6千年前)のものが出土しており、旧来の「大陸→列島」ルートだけではなかなか説明がつかないことなどが紹介されていて、読みどころが多かった。石器に見られる職人的な技術(北海道千歳市キウス9遺跡で出土した石刃鏃など)なども、僕にとっては目新しく、興味が湧くところであった。
ただ第Ⅲ部、第Ⅳ部になると、考古学研究を現代文明と結びつけて論じるようなエッセイみたいなものばかりになり、途端に面白さがなくなる。考古学者の本に文明論なんてものを期待していないし、さしてユニークなことが書いてあるわけでもないんで、かなり退屈で、読むのが苦痛になった。僕などは、吉本隆明の『共同幻想論』なんかを持ち出されたりすると途端に白けてしまうタイプの人間なんで、正直、この本の後半部分は僕にとってオヨビでないし、この本にとっても僕のような読者はオヨビでないのだ。読んでいて場違いな感を持ってしまう。
前半みたいな内容が後半も続いていれば、本として価値が高かったのにとは思いつつも、著者はもしかしたらこっち(後半)のほうを書きたかったのも知れないと思ったりもする。だが、考古学の知見を知りたかっただけなのに、現代思想を語られてもねぇとも感じる。