続・日本軍兵士
帝国陸海軍の現実

吉田裕著
中公新書

日本軍兵士は使い捨ての消耗品

 タイトルが示すとおり、数年前に刊行された『日本軍兵士』の続編である。前著の記述を、新たに発見された資料を使ってさらに深掘りするという内容である。

 本書で特に中心的に語られるのが兵站、給養、医療で、兵士のために十分な食料と休養、医療を提供できないお粗末な軍隊の有り様をさまざまな資料に当たって浮き彫りにしていく。

 兵站の問題については、戦闘の長期化につれて軍が十分な食料を確保できなくなったため、軍内に栄養失調が蔓延していった状況がデータを使って示される。また医療も十分でなかった上、自動車の不足のために兵士自らが運搬する荷物が過重になり、それが兵士の酷使、疲弊に繋がったという事実が明かされる。結果として、実際の戦闘に当たる前に多くの兵士が病死してしまうという現状があったという。それにもかかわらず、それに対してろくに対策をうつこともできず、いたずらに兵士を損耗させる結果になったのが、帝国陸軍の実態である。兵を消耗品のように扱うのは海軍でも同様で、劣悪な船内環境に少しでも多くの人員を詰め込もうとするあまり、住環境が損なわれることになり、それが兵士の過重なストレス、損耗を招く結果になった。

 こういった劣悪な兵士の扱いのために、戦死した戦闘員のほとんどが戦闘死ではなく病死しているという現実が生み出されることになった。人を人として扱わない帝国陸海軍の体質が、兵力の無駄遣いをもたらしたわけである。また戦闘死についても、その多くは下級兵士であり、将校や下士官は兵士よりも戦死率が圧倒的に少なかったという事実が資料によって明るみにされる。軍隊内に差別的な構造があり、それが末端にまで行き届いているのだから恐れ入る。下級兵士が使い捨ての消耗品だったことは、こういった体質からも窺われる。

 本書が目的としているところは、このような当時の状況を実証的に検証するというアプローチであり、それについては前著同様、十分成功していると言える。ただし著者によると、多くの資料が終戦時(証拠隠滅の目的で)軍によって廃棄されており、求めても行き当たらない資料も多かったということである。腐った組織はどこまでも腐りきっているということが窺われる事例で、このような愚かな組織が幅を利かせて威張りくさっていた当時の日本は、どう考えても健全とは言いがたい。愚かな人間に力を持たせることが二度とないようにしたいものである。

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