ビギナーズ・クラシックス とりかへばや物語
鈴木裕子編
角川ソフィア文庫
あらためて『とりかえ・ばや』のできの良さを知る
マンガの『とりかえ・ばや』が非常に面白かったので、原作にも少し当たっておきたいと思い、『ビギナーズ・クラシックス』版を読んでみた。
やはり、マンガ版は、著者がかなり独創を盛り込んでいるようで、最後のスペクタクルは、すべてオリジナルのストーリーである。他にも登場人物の名前(沙羅双樹や睡蓮など)もすべて独創、登場人物も多くは独創である。
原作は、もちろんストーリーの意外性はあるが、途中からご都合主義的になっていき、登場人物の性格付けまでが少しご都合主義的に変わっていく。正直言って、かなり物足りない。それに、原文は省略が著しく多く、大変読みづらい。原文で読むとかなり苦労する類の話である。
本書の「後書き」によると、『とりかへばや物語』自体、旧版(11世紀末頃から12世紀初頃の作)と新版(12世紀末頃の作)があるらしく、『無名草子』の評によると、新版の方が圧倒的によくできているということである。ちなみに旧版は残っておらず、現在我々が目にするのは新版らしい。
だがそれでも、今の視点から見ると、軸になるストーリー以外、あまり魅力を感じない。特に男女の役割を入れ替わった二人が再び元に戻るあたりがかなり安直に感じる。やはりマンガ版ぐらいの整合性がなければ、リアリティを感じられない。ということで、あのマンガ版は、相当な傑作だと言うことができる。
なお、このビギナーズ・クラシックス板は、例によって、章ごとに訳文、原文、解説を並べて紹介するという構成になっていて、他の『ビギナーズ・クラシックス』シリーズと同じ体裁である。編者は、学生時代に『とりかへばや物語』をたまたま読んで夢中になり、その後研究者になったという人で、『とりかへばや』に対する愛情を感じられる。『とりかへばや』の紹介者としてはうってつけの存在かも知れない。また、ジェンダーの視点から本書の内容を分析した箇所もあり、興味深い部分もある。『とりかへばや物語』に触れてみたいという人にとっては、なかなか良い本に仕上がっているのではないかと思う。