ビギナーズ・クラシックス 紫式部日記
紫式部著、山本淳子編
角川ソフィア文庫
『枕草子』ほどの面白みはない
『ビギナーズ・クラシックス』シリーズの一冊。『源氏物語』の作者、紫式部が残した『紫式部日記』のダイジェストである。
『紫式部日記』は、そのタイトルの通り、当時、一条天皇の中宮、彰子に女房として仕えていた紫式部の日記であり、主に中宮彰子の初産の様子を記録した書である。そのため、中宮彰子の出産の直前から記述が始まり、出産、その後のお祝いなどの過程が、彰子に近い立場から記述されている。
紫式部日記』は、このような出産記録が中心になっているが、その間に「消息文」と呼ばれる手紙形式のエッセイが挟まれており、他の女房の評や女房勤めに対する姿勢などが表明されている。『枕草子』を意識したものか、後世の人が紫式部の日記を勝手に挟んだのかそのあたりはわかっていないらしい(おそらく今後も判明することはあるまい)。また『源氏物語』関連の逸話も記述されており、新しいしつらえで『源氏物語』を製本したとか、彰子の父である藤原道長が『源氏物語』の草稿を勝手に持っていったとかいうようなエピソードが紹介される。『源氏物語』を研究する上でおそらくこういう部分が大切な材料になるんだろうとは思うが、ただ全体的にあまり面白みはなく、『枕草子』の方がまだ読みどころが多いとは感じる。『紫式部日記』が比較的マイナーな存在であるのもそれが理由かと思うが、こういったマイナーな書を取り上げた『ビギナーズ・クラシックス』には、やはり敬意を払いたいところである。
『ビギナーズ・クラシックス』シリーズの他の書と共通で、随時取り上げられた部分的な箇所のみが訳文、原文、解説の順に紹介される。全文の抽出ではないが、先ほども言ったように書かれている内容にあまり面白みがないため、これで十分な気もする。原文は(『源氏物語』同様)省略がきわめて多いなど読み説くのがかなり難しいが、訳文は相当量補足されて意訳された文章になっているため、訳文の内容はわかりやすい。それでも内容に面白みがないのはやはりいかんともしがたい。