自律と尊重を育む学校
工藤勇一編著
時事通信社
内容は非常に充実しているが読みづらい
もう一工夫欲しい
『学校の「当たり前」をやめた。』で紹介されているように、当時麹町中学校の校長だった工藤勇一氏は、生徒中心の学校にするために数年かけて同校で改革を行った。その成果は(傍目で見る限り)目覚ましいものであるが、その実践内容は工藤氏の著書から窺う範囲でしかわからず、多少の物足りなさを感じていた。
たとえば先日読んだ本(『子どもたちに民主主義を教えよう』)からは、『学校の「当たり前」をやめた。』をすでに読んでいたにもかかわらず、こんなことも実践していたのかと感じることがあったりして、「改革」の実践範囲が非常に広範に渡っていたことが窺われる。現場でどのようなことが行われていたかをもっと知りたいものだと思っていたところ、工藤氏と、麹町中学校に当時勤務していた教員とが麹町中学校の実践例をまとめた本があることを知り、本書に辿り着いたわけである。
本書は、「はじめに」を工藤氏が担当し、他の項(全41項)を6人の元・麹町中学校教員が分担してまとめている。各項では、麹町中学校の取り組みがいろいろな方面に渡っていることが紹介されており、その対象は生徒指導から学校行事に至るまできわめて多岐に渡る。基本的には、生徒第一主義とでも言うべきもので、大目標をそこに置いていることから、これまでの学校で見られたような生徒への理不尽な締め付けはまったく見られない。それは、これが日本の教育機関かと思うほど徹底しており、改革の意欲さえあればこれだけのことが実践できるということがあらためてよくわかるほどである。中には保護者からのクレームへの対応などについても書かれており、学校関係者以外が読んでも役に立つようなことも多い。
ただし、書き手が多岐に渡っていることもあって、大変読みづらい項が散見されたのも確かである。また、教員向けのような(あるいは想定読者を見失っているかのような)報告書風の記述もあり、改善の余地は大きい。背景について詳しく説明する(書き手が前提としていることが伝わってこない箇所もあった)、さらに多くの実例を紹介するなど、読みやすくする工夫はもっと必要だと思う。ただこれを読むと、工藤氏の本の読みやすさが逆照射されるのも事実で、次回は工藤氏に、網羅的でなくても良いから、もっとわかりやすくまとめられた本を期待したいところである。