学校ってなんだ!
日本の教育はなぜ息苦しいのか
工藤勇一、鴻上尚史著
講談社現代新書
学校は子どもを抑圧する機関ではない……はずだが
『学校の「当たり前」をやめた。』の工藤勇一と、劇作家の鴻上尚史の対談を一冊にまとめたもの。
鴻上尚史が司会を務めるテレビ番組『cool japan』で、工藤勇一の麹町中学校が紹介されたことから、鴻上が工藤に多大な興味を持ち、SNS経由で対談の企画を持ちかけて実際に対談を行い、その結果がこの本になったという。そういういきさつで作られた本なんで、安直と言えば安直だが、工藤の考え方や中学校長時代の方法論などが、対談であるためか率直に語られるため、『学校の「当たり前」をやめた。』を読んでいた上でも、得るところは大きい。鴻上自身も、中高時代、学校の理不尽な校則に怒り、生徒の立場で改革しようとして挫折したという経験を持っていることから、工藤が行った学校改革に大きな関心を持っていたようである(工藤は麹町中学で校則と中間テストや学年末テストをなくしている)。ただし、校則の議論については、工藤によると、こういう問題に落とし込まれること自体、大人の側に誘導されているようなもので、問題が矮小化され、結局、本質についての議論が導かれないのだという。子どもも大人も一緒になって、もっと根本的な問題について議論することが重要であると工藤は言う。
工藤の理想とする教育は、子どもが社会との関わりについて考え、自分の問題として社会に能動的に働きかけるような、自己決定ができる「自律」的な人間を作ることである。そういう人間を育てる上で校則も学年末テストも不要と判断し、ものごとについての決定権を全面的に生徒にゆずる方向にシフトしていったというのが工藤の改革である。
他にも、反対勢力を巻き込む方法、違う意見を持つ者同士が議論をして結果を導く方法なども紹介されていて、大変興味深い。ただ一つ気になったのが、工藤がやたら「欧米の学校では」みたいなことを言うことで、「欧米」がどこの国のどういう教育を指すのか具体的に言ってくれると良かったと思う(少なくとも米国や英国ではなさそうだが)。
いずれにしても、教育に関わる人間、関わらない人間を問わず、なかなか示唆に富む対談であるのは確かである。先ほども言ったように工藤や鴻上の著作をすでに読んでいる人でも、新しい発見があると思う。