ビゴーが見た日本人

清水勲著
講談社学術文庫

ビゴーによる明治日本論

 明治期に日本に住んでいたフランス人の絵描き、ジョルジュ・ビゴーの版画や素描作品を100点集めてコメントを加えた本。著者はマンガ研究家で、ビゴーの名を日本で広めた人でもある。

 ビゴーの絵といえば、日清戦争を風刺した絵(「漁夫の利」)が学校の社会の教科書に載っていたりすることで知られているが、あの絵についてはこの本に掲載されていない。出典は自局風刺雑誌『トバエ』や画集『国会議員之本』、雑誌『日本人の生活』などで、当時の日本の生活や政治状況がよくわかるような絵が集められている。

 著者は当時の風俗が非常にリアルに描かれている点が貴重だと述べているが、それはまさに言い得て妙で、映像が残されていない当時の風俗が生々しく描かれている。たとえば上半身は立派な洋装を身につけている紳士が、ズボンを脱いでふんどし姿で歩いている図は、風俗の一級の資料として重要度が高い。当時外の世界から明治日本の独特の社会風俗に触れたビゴーの目は現代人の我々に近い。おそらくこういった風俗がビゴーの目に奇妙に映ったので活写したんだろうが、今の我々の目から見ても珍奇である。しかしユーモラスで面白くもある。また、遊郭でことが終わった後ふんどしを身につけようとしている男の絵も生々しくて驚く。風呂屋の場面や宴会の場面も描かれていて、こういうのは記録に残りにくい風俗であることを考えると、価値は非常に高いと言える。

 全般的にゲスで醜く描かれている日本人の絵が多く、差別的なニュアンスも感じられて、被差別側としては少々不快な気分になる部分もあるが、しかしデッサンや絵は非常にうまく、表情も見事に捉えている。ビゴー自身は、浮世絵に魅せられて日本に来たらしく、その後も17年間滞在していたということで、日本には愛着があったらしい。ただし不平等条約改正交渉については反対の立場で、条約改正を機に本国に戻ったということだ。自分を含むヨーロッパ人の既得権を守ってほしいということだったようだが、こちらについても、日本人としてはあまり良い気持ちはしない。ましかしそういう日本人としての心情は置いといて、美術、風俗資料という視点から見ると、何度も言うが非常に価値が高いものばかりで、明治の日本人、明治政府に向けられた批判精神についても概ね受け入れられる。

 著者によるとビゴーの絵は日本のマンガにも多大な影響を与えているということらしく、浮世絵の影響を受けたビゴーが日本のマンガに影響を及ぼすというのも流れとしては自然なのかも知れない。

-社会-
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