明治日本写生帖
フェリックス・レガメ著、林久美子訳
角川ソフィア文庫
明治中後期の日本の描写
そのため江戸情緒は少なくなった
1976年(明治9年)にエミール・ギメとともに日本を訪れた画家、フェリックス・レガメの著書。
とは言っても、1976年の来訪時の記録ではなく、1999年に再来日した後にその印象記として書かれ1905年頃に出版された本(『Le Japon en images』)が原著である。
「政治と文明化」、「軍隊」、「宗教・風俗・慣習」、「音楽と踊り」、「芝居と相撲」、「公教育」、「芸術と芸術家」の6章立てで構成されており、各章で当時の日本のさまざまな事象について記述していく。総じて明治日本案内記みたいなものになっている。「公教育」、「芸術と芸術家」などという項があるのは、レガメの来日目的が「日本の美術教育視察」(フランス政府により派遣)だったことから納得できるところで、本書を通じ、広範囲に渡って当時の日本の社会や風俗、文化などを窺い知ることができる。当然レガメのスケッチや絵画も多数掲載されており、当時の雰囲気を今に伝える役割を果たしている。
レガメ自身がかなりの日本びいきだったこともあり、全般的に日本礼賛記事が多く、ヨーロッパにない美術や文物についてはともかく、軍隊や教育に対してもベタ褒めしているのは行き過ぎであり、そういう箇所については疑問を感じる。レガメ自身が、フランスでパリ日仏協会の幹部を務めており、日本文化の紹介や礼賛を行っていた人であるため、それもわからなくはないが、(ヨーロッパのシステムをそのまま模倣していた)当時の明治日本が理想郷であるはずはなく、現代の視点から見るとやや的を外しているという印象を受ける。
僕自身は1976年の来日時の記録が中心と思って本書に当たったのであるが、現実にはそれはまったく見当違いであって、そういう点で少し失望したが、レガメの絵画が非常に魅力的であるのは変わりない。当初期待していた江戸情緒が少なかったのが難点であるが、明治期の資料として接すればまあそれなりに楽しめる書である。