英国人写真家の見た明治日本

ハーバート・G・ポンティング著、長岡祥三訳
講談社学術文庫

憬れの江戸日本

 明治期(1902〜1910年頃)に来日したイギリス人写真家の日本紀行。著者のポンティングは、スコットの南極探検に同行して南極の写真撮影を行っており、そちらでも有名らしい。ちなみに日本に滞在したのは、計3回延べ3年に渡り、原著のタイトル(『In Lotus-Land Japan(桃源郷の日本で)』)からわかるように当時の日本に非常に思い入れがある。

 この本は言ってみれば旅行記なんだが、とにかくあちらこちらに赴いていて、しかも描写が写真家らしく微に入り細を穿っているため、当時の様子が非常によく伝わってくる。たとえば明治の工芸家の工房も数多く訪ねている他、富士登山、浅間山(当時活火山)登山、保津川下りなど、旅行者として一通りのことは体験していて、しかも江戸期、明治期の日本人庶民の楽しみを堪能しているため、現代人の我々が読んでも非常に新鮮である。ただしこの本で描写されている「江戸」日本は、現代日本とは少々異なり、今の日本ではあまり見受けられない要素が多い。まさに「逝きし世の面影」であり、現代日本人から見ても非常に魅力的である。

 この本でなんと言ってもすばらしいのは、さまざまな場所で撮影された写真が紹介されている点で、どの写真もこの時代のものとしては最上級である。東海道を撮影した写真は広重の浮世絵そのものであり、写真の方々に江戸情緒が残っている。中には富士山頂や浅間山頂、阿蘇山頂の写真なんてものもある。富士山の写真が多いのは著者の富士山に対する入れ込みようを示している。また著者が1章割いて記述している箇所(第八章「日本の婦人について」)では、日本女性を撮影した写真(しかも自然な表情のもの)も多く紹介されており、こちらも非常に貴重なものである。

 もちろん旅行記としても優れていて、浅間山登山時に噴火に遭った描写や富士登山時に山頂で4日間閉じ込められた描写などは読んでいて面白い。真面目に仕事をこなす善人の日本人が多く紹介されているのも読者としては心地良く、著者が当時の日本に入れ込んだのもよくわかろうというもの。江戸・明治初期の日本というのは、当時のヨーロッパ世界(ひいては現代社会)とは異質であり、今の僕にとっても憬れの存在である。

-日本史-
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