〈叱る依存〉がとまらない

村中直人著
紀伊國屋書店

「叱る」という行為は「叱る」側の欲求によるもの……
という視点が斬新

 「叱る」という行為は、相手に恐怖感・不快感を与える役割しか果たさず、ものごとを改善させる上でほとんど効果がないため、現在世間に蔓延している「叱ることで他人を教育する」という考え方は、現実をまったく反映していないというのが本書の主張である。むしろ「叱る」側に快感情が生まれるため、容易に依存しやすく、そのために多くの人は「叱る」ことをやめられなくなっている。そしてそのことが、子どもの将来だけでなく、社会にも大変な悪影響を及ぼしているのが現状である。本書の内容をまとめると、こういうことに落ち着くだろうか。

 本書で展開される議論、たとえば「叱る」という行為に改善効果がまったくない、「叱る」という行為は依存物質(行為)である、「叱る」という行為と虐待・DV・ハラスメントは繋がっている、SNSで「叱る」行為がエンタテイメント化していること(つまり「炎上」への加担)は「叱る」依存のせいだ……などという主張が非常に斬新で、切り口が鋭いと感じる。多くの事項について、その背景となる理論や実験などを引用しており、説得力を高めようという意図も感じられる。一部の議論については眉唾ものと感じるものもあるが、しかしとにかく視点が斬新であるため、本書はすべての大人(特に「叱る」当事者)が一読する価値ありとさえ言うことができる。

 何と言っても、「叱る」という行為を「叱られる」側と「叱る」側の双方の視点から分析したのが、アプローチの第一歩として非常に鋭いと思わせる。さらに「叱る」という行為が「叱る」側に快感情を生み出し、このような「処罰欲求」が虐待やバッシングに結びついているという分析も鋭い。僕自身は、このような見方は今回初めて知ったため、目からウロコが落ちるような思いがしたんだが、あるいはすでに知られている理論だったのかも知れない。いずれにしても、この著者が展開している議論が今後、世界レベルで標準的な考え方になるのではないかという印象さえ持った。誰もが一度は接しておくべき理論だとも思う。

 最後の章では、著者が考える「叱る依存」からの脱却方法についても紹介されているが、こちらはあまり説得力を感じなかった。ただ何よりも重要なことは、「叱る」という行為が「叱る」側の欲求で行われているという事実を知ることであり、そういう点で本書の有用性は非常に大きいと思う。装丁が垢抜けておらず地味で、本自体の第一印象はそれほど良くないが、中身は非常に充実しており、好著である。文章が読みやすいという点でも価値が高い。

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