僕らはそれに抵抗できない
「依存症ビジネス」のつくられかた
アダム・オルター著、上原裕美子訳
ダイヤモンド社
依存症を生み出す勢力について
行動経済学者である著者が、依存にまつわるさまざまな事例を紹介する書。特に近年増えている、依存症を利用してユーザーを増やそうとするビジネスについても積極的に紹介している。その上で、消費者の側は、このような現状を認識した上でそういったものと関わっていくべきと説く。
本書では、非常に多岐に渡って依存症関連のトピックが紹介され、ややとりとめがない印象もあるが、それでもその記述の多くは注目に値する。中でも、多くのビジネスで、さまざまな方法を駆使して利用者を製品に依存させるように仕向けているとする主張が興味を惹く。SNSやオンラインゲームからネットフリックスのドラマに至るまで広範な産業で、人の依存性向を利用して利用者を増やそうとしているというのである。このことを例証するために、人や動物の依存性向を実証する目的で行われた数多くの実験も紹介されており、そういった性向が利用者獲得のために実に巧妙に活用されていることがわかるようになっている。このあたりはいかにも行動経済学的なアプローチと言える。
ともかく人間は(薬物だけではなくモノにでも)いともたやすく依存状態になる存在であり、現代社会は、スマホやウェアラブル端末など常に手元に置ける依存物質が存在する状態であるため、ネット依存に陥る人間が増えるのは至極当然である。したがって、利用する側にもそれなりの認識がなければ、いとも簡単にネット依存状態になってしまう。そして、依存という観点から見ると現在相当深刻な状況が進んでおり、今後、グローバルレベルで大変な社会問題になる可能性が高い……というのが本書の主張である。
依存症ビジネスといえば、一般的には麻薬の売人などをイメージするわけだが、本書の考え方に従うと、現代ではそれが企業レベルでグローバルに展開されているということになる。しかも昨今では、親が子どもにスマホを与えたりしているわけであり、言い換えると親族が売人の手先を買って出ている状況と言えなくもない。本書では、こういった事情もしっかり明らかにされている。副題の『「依存症ビジネス」のつくられかた』という文言が、このあたりの内容をよく反映している。
ただ、先ほども書いたように全般的にやや冗長で、400ページに渡って、いろいろな事例や実験結果が(ダラダラと)紹介されるという状況が続くため、読み終わるにはやや骨が折れる。本書は、翻訳も悪くなく読みやすいため、拾い読みでも十分得られるものがあることから、そういった読み方もありではないかと思う。
なお本書は、比較的大手の出版社から出された本ではあるが、誤植がちらほらあった。昨今、本の内容の劣化も甚だしいが、商品としての体裁まで劣化しているようだ。従来、程度の低い誤植がちらほら存在するなどということは、少なくとも大手の出版社にはなかったように思うが、そういう点で少しばかり嘆かわしさも感じる。