ビギナーズ・クラシックス 大鏡

武田友宏編
角川ソフィア文庫

平安貴族の人間ドラマ
古典だが存分に楽しめる

 平安時代の歴史物語『大鏡』を抜萃し、現代語訳を付けたもの。

 現代語訳が丁寧であるため、古文が読めなくても内容を楽しめる。また背景などについても詳細な解説があり、入門書としてはうってつけである。

 『大鏡』については、学生時代に関心があったので文庫本を買ったこともあったが、相当な大著で、しかも、本紀(それぞれの天皇の治世について概括的に述べたもの)から始まることから、通読していてあまり面白いと感じない。面白い部分とどうということのない部分が混ざっているため、当たりにぶつからないと結局読み続けることができなくなる。そういう按配で、序盤で断念した。この本みたいに面白い部分ばかり取り出して、しかも現代的な感覚ではわかりにくい箇所についても説明してくれていると、『大鏡』を面白いと感じる。まさに「ビギナーズ・クラシックス」という名にふさわしい、ビギナー向けの好著である。

 『大鏡』は、大宅世継(190歳)と夏山繁樹(180歳)という二人の老人の昔語りを若侍と著者、その他の人々が聴くという体裁で記述される歴史書で、藤原道長を絶賛している点が特徴として挙げられる。そのために道長の武勇伝が取り上げられているが、一方で道長の兄の道兼のダメ具合なども出てくるし、道長が、姉の皇太后・詮子による(息子の)一条天皇に対する強い圧力によって内覧(関白に類する役職)に取り立てられることになったというようなエピソードもある。人間ドラマとしても興味深い話があり、奥深さを感じる。ただしだからと言ってやはり全部読み直すのは骨が折れそうである。僕が以前買った角川文庫では本編だけで300ページ近くあり(8ポイント程度の文字)結構な大著である。したがって、読むとしても、せいぜい拾い読み程度で結局終わるんではないかと思う。またすべて現代語訳という潔い文庫も出ているんで、そちらに当たっても良いかなという気もする。

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