フランス革命 歴史における劇薬
遅塚忠躬著
岩波ジュニア新書
良い本だとは思うが
炭酸が抜けたコーラのような物足りなさがある
これも岩波ジュニア新書の一冊。この『フランス革命』は岩波ジュニア新書を代表する名著という呼び声があるらしく(本当のところはよく知らないが)今回それで手にとってみた。どんな本かというと、タイトル通りフランス革命について書いた本で、通史と言うより、フランス革命の性格付けというか歴史的な評価に重きを置いた本で、大学の教養過程の授業みたいな内容だった。高校生など歴史をこれから志そうという学習者にとっては良いかも知れない。そういう意味でも、やはりこの岩波ジュニア新書シリーズ、「ジュニア」という冠が非常によく似合う。まさに看板に偽りなしの本である。
で、具体的には、フランス革命の功罪を挙げており、「功」の部分が共和政への移行、自由と平等の理念の表明、社会主義的・福祉的な諸制度の策定などで、「罪」の部分として恐怖政治によって大量の死者を出したことを挙げている(処刑されたのは4万人以上(!)という)。そしてこの功罪は、革命の進行に合わせて「功」の面から「罪」の面に性格が移ったのではなく、元々フランス革命自体にこの両方を生み出す素養があったということを主張する。つまり、社会の不正を正す薬でもあり、同時にこの薬はあまりに効き過ぎる劇薬であったため、その性質上、最初から恐怖政治という副作用を内在していたというのである。さらにそれが、貴族、市民階層から登場した新興ブルジョア、貧しい一般市民の3つの勢力が併存して、権力を握った新興ブルジョアが、必要に応じて貴族階級に取り入ったり、一般市民に取り入ったりしたことから、大きく左右に振れたという説を展開している。
お説ごもっともで、フランス革命の歴史的分析としては異論はないが、ただもう少し楽しさというか物語的なワクワク感が欲しかったところで、少々物足りなかったのも事実である。恐怖政治の原因を作ったロベスピエールや、断頭台に送られたダントンなどについて、もっと詳しく書いてほしかったなーというのが正直な感想なんだな。歴史学的なアプローチを紹介するという意味では成功しているが、(西洋近代史を専門的に勉強したいというのではない)普通の読書人にとっては少々ものたりない内容になったように思う。少なくとも僕はそう感じた。