ボクの手塚治虫
矢口高雄著
講談社文庫
当時の手塚マンガの衝撃が伝わってくる
マンガ家、矢口高雄の手塚治虫に対する思い入れを綴ったマンガ作品。
元々は毎日中学生新聞に連載していた自伝的エッセイ・マンガ『オーイ!! やまびこ』が出典らしい。つまり矢口氏、子ども時代に手塚治虫のマンガに衝撃を受けその後も多大な影響を受けていることから、彼の少年時代を描く上で手塚治虫という存在を欠かすことができなかったというのだ。そのために『オーイ!! やまびこ』にも手塚マンガのエピソードをたまに入れていたんだが、思い入れがあまりに強かったせいか、とうとう手塚マンガのエピソードが全部で5話にまでなってしまった。そういういきさつで、その5話を取り出して単行本化したのが、この作品というわけ。
その思い入れたるや尋常ではなく、熱い思いは読んでいるこちら側にも存分に伝わってくる。手塚マンガに対する思いは、藤子不二雄の『まんが道』とも共通するもので、いかに当時のマンガ少年たちにとって手塚が大きな存在だったかがよくわかる。また当時刊行されていたマンガ雑誌『漫画少年』への思いも出てくるが、こちらも当時のマンガ少年たちにとって大きな存在になっているのは疑いのないところである。実際、トキワ荘グループの作家たちは、そのほとんどがこの雑誌の投稿欄を通じて世に出てきている。日本のマンガ史を振り返った場合、日本マンガの発展の上で、手塚治虫、『漫画少年』(少年向けマンガ雑誌)、『ガロ』(青年向けマンガ雑誌)の3つが最大の役割を果たしたと僕は考えているが、そのあたりも本書から窺われるのである(ちなみに矢口高雄は『ガロ』でデビューしているため、すべてに関わっていることになる)。
なお本書では、当時著者が目にした手塚マンガも著者自身の手で再現されていて、こちらも大きな見所である(言うまでもなく非常にうまい)。エッセイ・マンガであるため、途中で手塚治虫はもちろん、松本零士(マンガ家)やガロの長井勝一(編集者)も(マンガ化されて)出てくる。また本書を描いている当時の、大人になった著者の姿もたびたび出てくる。絵は非常に丁寧で情景描写も美しい。『まんが道』と同じような熱も伝わってきて、大変よくできた著作と言うことができる。