雑学「大江戸庶民事情」
石川英輔著
講談社文庫
雑学的に拾って読むのに適した本
大江戸ブームの火付け役である石川英輔の著書。シリーズ第6作か第7作に相当するのではないかと思う。本書は、それまで石川英輔があちこちで書いていた江戸エッセイをまとめたもので、言わば断片集であり、それまで出版されてきたシリーズ本のような一貫したテーマはない。まさに「雑学」というタイトルが合っているような内容である。
とは言え、内容は石川英輔作品らしく、非常に詳細であると同時に、一貫した思想は見られる。つまり、よその未知の国の制度を理想化するより、身近に存在した完全リサイクルの時代を振り返る方が有用であるという考え方で、江戸社会は一般的に喧伝されてきたように決して「暗黒時代」ではなく、むしろ当時の世界水準では先進地域と考えられる平和でサステナブルな社会だったという主張である。その思想を背景として、江戸社会のさまざまな面を、史料を基に解き明かすというのが本書のアプローチで、それは石川英輔の大江戸シリーズで一貫した態度である。
本書は、「職業」、「暮らし」、「教養」、「匠」、「娯楽」、「旅」、「心」の7つの章に分けて、さまざまな事項について触れていくという構成になっている。他の書に出ているようなテーマも多く、割合重複があるという印象だが、「娯楽」と「旅」の項は比較的新鮮な内容である。特に「娯楽」の項の「遊山」、「花見」、「花火」が、よくまとまっていて内容的にもなかなか興味深い。他に下平和夫という数学の先生との対談が巻末にある。
石川英輔の書としては比較的平凡な方だが(なんせ書きためたエッセイをまとめたものだから)、著者の本をあまり読んでいない人が最初に読む本と考えれば、なかなか良い入門書になっているのではないかと思う。面白そうな項を雑学的にピックアップして読んでいけば得るものは多いはず。