百年前の日本 − モースコレクション(写真編)

小西四郎編、岡秀行編
小学館

図録みたいな本だが
資料的な価値は高い

 20年ほど前に出版された書籍で、そのときに買ってからそのまま積ん読にしていたという大型本。20年前に出版されたのは確かだが、実はオリジナル版は1983年に出版されたもので、本書はその復刻普及版なのであった。復刻版というのも意外だが、この大きさで普及版というのも意外。

 実は1980年代前半に、モース来日百周年ということで、さまざまなモース関連の展覧会が開かれたようなのである。その際に、モースコレクションが収蔵されていた(埋もれていた)米国セイラムにあるピーポティー博物館(かつてモースが館長に就いていた施設)に研究者が赴き、その収蔵庫から貴重と思われるコレクションが「再発見」されて、日本の展覧会に供出されたという事情がある。本書もその図録の延長のような存在だったのではないかと想像できる。

 モースのコレクションは大きく分けて、明治期に収集された写真と民具で構成されているが、本書は写真編で、他に民具編も出版されている(こちらは当時図書館で借りた)。この写真編では、明治初期から中期にかけての写真が集められており、モースが直接日本から持ち帰ったものばかりではない。というのもモースは1977年、78年、82年の3回来日しているが、写真には1890年撮影とされているものも多数存在するためである(1910年撮影というものもある)。おそらくモース帰国後、ピーポティー博物館が他のコレクターから集めたものも存在するのだろう。

 本書に収録されている写真は300枚で、「江戸から東京へ」、「農村・漁村」、「商人・職人」、「子ども・女性・日常生活」の4つのカテゴリー(全4章に対応)に分類されている。江戸の情緒を残す風景や人物が映し出されており、現代人の目から見ると大変新鮮である。中には色の付いたものも多く存在するが、これは当時、原版に手彩色を施して外国人向けにお土産用として販売されていたものだという(当時カラー写真は当然存在していない)。ところどころ不自然な色合いもなくはないが全体的によく雰囲気が再現されている。動きのある写真とない写真の両方があるため、湿板写真と乾板写真の両方が併存しているのではないかと思われる(なお、湿板写真、乾板写真などの写真技術の解説は、本書の最後のページにある)。

 モースらの外国人が当時目にした風景もこれに近いものだと考えられ、今の日本人の目から見ても(特に江戸期は)特異な時代だったのかも知れないと思う。失われた風景の一断片が(こういう形でしかないが)残されていたのは幸いだったのではないかとあらためて感じるのだった。

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本の紹介『新編 日本の面影』