高校生向けおすすめ英語長文問題集①
桐原書店『速読英文』シリーズ
私自身、大学受験に臨む高校生に英語を教える機会が多いことから、必然的に入試問題集や参考書にも目を通すことが多くなります。当然ながら、参考書には良いものもありますがひどいものもあります。一番良いのは、受験生自身が書店で手に取り、良さそうなものを買ってみて使ってみる、合わなかったらすぐやめるという方法ですが、実際は「すぐやめる」という部分がなかなか難しいものです。ですが、つまらない参考書や勉強法に付き合わされるのは時間の無駄で、むしろ有害ですらあります。本当のところ、正しい参考書・問題集を選ぶ段階ですでに受験の成否は決まっていると言っても過言ではありません。良いものを選ぶよう心がけましょう。
書店に行って並んでいる本を眺めるとわかりますが、現在世の中に出ている本のほとんどは存在価値のないものです。暴論と思われるかも知れませんが、事実なんだから仕方がない。私は実際にそういう本を買って随分損しているんだから、これくらいは言わしてもらいたい。私に言わせれば、出ている本の90%はゴミ、残りの5%は一部の人に役に立つ本、残りが多くの人に取って役に立つ本ということになります。つまり出版されている本の95%近くは自分にとって役に立たないわけです。こうなった理由の一つは、1980年代以降、出版点数が多くなりすぎたことで、早い話が、出版関係者がノルマで作らなければならない状況が増えているということが挙げられます。そのために安直に作られた本が実に多いという現状が生まれたわけです。作りたい、書きたいと思って作られた本と比べて、そういう本の質が劣るのは言うまでもないことでしょう。
参考書や問題集についても、同じことが当てはまります。最近は、有名な予備校講師の名前を冠しているものが多くなっているようですが、正直中身を見て呆れかえるようなものも少なくありません。そういう類の参考書はとりあえず、フィルタリングしておくのが無難でしょう。こういう状況が現実であるため、選ぶ側の目が問われるということになるのです。そうは言っても、これから勉強していこうという受験生諸君にそこまでのリテラシーを求めるのも酷というものでしょうから、私自身が良いと思ったものをここで紹介しようと思います。最終的な判断は、実際に自分で手に取って、自分自身ですれば良いのです。あくまで参考意見として聞いていただきたいと思います。
今回は、英語長文問題集編①です。ただし、私の場合、問題文自体と問題の善し悪しで問題集の善し悪しを判断するため、解答や解説については重視していません。そのため独学で使う分には、少しもの足りない可能性もあります。実際に問題を解いてみて不明な箇所が万一あるようでしたら、学校の先生などに訊ねるなどすれば良いでしょう。ちなみにここで紹介するものは、すべて私自身、高校生に長文読解を教えるときに教材としてこれまで何度も使ってきたものです。
実戦演習 基礎速読英文 佐々木功編著、桐原書店
実戦演習 標準速読英文 佐々木功編著、桐原書店
実戦演習 完成速読英文 堀田八重子編著、桐原書店
ここで紹介するのは、桐原書店の『速読英文』シリーズです。比較的易しい問題集ですが、問題文の内容がなかなか面白く、読んでいて興味を惹かれる素材が多いため、入門用として最適です。
「レベル別」という触れ込みがあるとおり、「基礎」、「標準」、「完成」の三冊があります。それぞれ英検準2級、2級、2級〜準1級ぐらいの難易度でしょうか。「標準」と「完成」では、多くの問題が実際の入試問題から採られているようです(出題大学の名前が付されています)。
どれも全部で18題と、他の問題集と比べるとやや多めで、しかも価格も1000円以下と大変リーゾナブルになっています。別に宣伝しようってわけではないですが。難点は、近年の他の問題集のようにCDなどの音源が付いていないところですが、値段が値段なんで仕方がないところです。もっともCDについてはほとんどの人が使わないでしょうし、CDの付録自体過剰なサービスと言えなくもありません。それと、一部の問題が少し古めのトピックであるというのもマイナスです。たとえば『標準編』の第7題は、アメリカの新聞に見られる(交際相手を求めるための)自己アピール広告を扱っていて、私自身もかつてこの話を聞いたときに面白いと思っていたネタで、なかなか奮っているんですが、おそらく現在はこの手の新聞広告は存在しないんではないかと思います。というのはインターネットの出会い系サイトがこういう役割を果たしていると思われるためです。もちろん、こういった素材については、昔のネタとして楽しめば良いんですが、そのあたりは利用者が少し融通を利かせなければなりません。他にも、第8題の「サルの研究」、第11題の「日米の計数法の違い」、第14題の「エイプリルフールの由来」、第16題の「オーストラリアのラクダ」が意外性があってユニークな素材です。第3題の「ボディランゲージ」、第10題の「時計の歴史」、第12題の「盲導犬」、第17題の「ゴミ問題」なども面白い文章で、第18題にはOヘンリの「警官と賛美歌」が採用されています。第4題の「リンカーン」については、内容は割合標準的なものですが、記述が少し皮肉が効いていて(そこが難しい箇所なんですが)読み応えはあります。先ほど「比較的易しい」と書きましたが、それでも受験生にとっては理解が難しい箇所が散りばめられているため、上級者であっても決して役に立たないということはありません。また、全体的に素直な文章が多いため、音読の素材に非常に適しています。
ついでに言えば、『基礎編』では、第3題「キリンの生態」、第4題「世界のシンデレラ」、第6題「ケンタッキーフライドチキン事始め」、第9題「ガラスの歴史」、第10題「ボールペン事始め」、第11題「ボディランゲージ」がユニークな問題文で、第13題、第14題はちょっといい話と、こちらも面白い問題文が目白押しです。この問題集は、最後の第18題「ジャガイモの歴史」が目玉で、ユニークな素材です。ただしこの問題は若干難易度が高くなっています。
また『完成編』では、第2題「アメリカの労働組合運動」、第4題「睡眠不足の問題」、第5題「民主主義」、第6題「鳥の卵」、第7題「ホットドッグの歴史」、第9題「カレーの歴史」、第10題「動物園の不思議」、第11題「人と人との距離感」、第12題「世界で一番貴重な液体」、第13題「時間厳守であること」がユニークな問題文で、第14題「ノーベル賞の歴史」、第16題「帰ってくるツバメの謎」、第18題「熱帯雨林」が、読んでいて面白い素材です。
一冊の問題集で、楽しめる素材がこれだけ集まったものは他にほとんど類例がなく、まさに粒ぞろいと言って良いと思います。その点で編者の優れたセンスが窺われます。英文の読解力がそれなりにあるのであれば、是非トライしてほしい英語素材です。また、読解力の向上を図るために、何度も音読する上でも大変優れた素材と言えます。
なお、同じ出版社から、似たような装丁の問題集(『英語長文』)が出ており、私自身こちらにも目を通しましたが、こちらはもう一つという印象です。買うのであれば断然『速読英文』シリーズがお奨めです。