単語集を通じて、合理的な思考について考える

『試験にでる英単語』
試験にでる英単語 CD付

 大学入試英語の単語集はいろいろと出回っており、どれも長所、短所はあるだろうが、僕は断然、『試験にでる英単語』をお薦めしたい。

 この本、すでに最初に登場してから50年以上経っており、僕が受験生の時代もすでにやや古めかしい印象があったが、しかしその内容は今でも色褪せていない。

 本書のコンセプトは、大学受験の問題の中に頻繁に現れる重要な単語をピックアップし、それを重要な順序で並べて、しかも訳語を原則的に1つに定め、さらには語源など覚え方まで併記するというもので、単語集としては至れり尽くせりの趣がある。同時代の単語集がすべてアルファベット順に単語が並べられたもので、しかも訳語も複数あり(中にはめったに使われないような意味が書かれていたりする)、小辞書といった趣だったのと大違いだったため、当時、選択肢としてはやはり『でる単』(『試験にでる英単語』の通称)以外になかった。だがそれでも小辞書のような『赤尾の豆単』(旺文社の『英語基本単語集』の通称)を使っている人もおり、僕は両方買っていたが、最終的に『でる単』だけに絞った。

 また『でる単』は、序文からしてなかなか奮っている。受験生は他の科目もやらなければならず、英語だけに集中するわけにいかないため、この本では最小限の努力で最大限の効果を発揮できるようにしているなどと書かれていて、教える側に立っている今でも共感する。収録語が1800語程度に絞られているのも良い。これでもそこそこの分量だが、これについて「少なすぎる」などという批判が著者の元にたびたび寄せられたというのは驚きである。ただその点については、序文の中で著者は開き直っており、もし1800語すべて記憶できた受験生がいたらそのときにもう一度知らせてくれと言ったらしいが、その後そういった受験生は1人しかいなかったという。

 僕自身、すでに『でる単』の中に知らない単語はないだろうと思っていたが、ちらほらある。したがって1800語が少なすぎるなどということは、少なくとも僕の口からは言えない。そもそも頭ごなしに高校生に大量の単語を覚えろと言う方がどうかしている。

 そういう事情があるため、僕自身は『でる単』を、関係する受験生に薦めているんだが、当の受験生からはあまり受け入れてもらえない。他の単語集を使っているというので、僕自身もその本に当たってみたりするが、どこがそんなに気に入っているのかさっぱりわからない。僕に言わせれば、無駄が多かったり変な訳語を充てていたりで、まったく勝負にならないと思うんだが、気に入っているものを使うのが一番良いという考え方もできるので、それはそれで良い。

良い本だが、現在品切れ中の模様

 現在市販されている単語集の中には一定の量の文章を紹介し、そこに含まれている単語を記憶しようというコンセプトのものもあって、発想と意識自体は誉められたものではあるが、こういう方法は単語の記憶方法としてはかなり労力が必要になるため、単語集としての使い方には適していない。長文に当たるのは必要だが、単語集などで一定量の単語の下準備をしてから実際の文章に当たる方が、僕の経験上はるかに効率が良い。そういうことを実験で証明したと主張している本もあるにはある(『英単語学習の科学』)。

 要は、著者が言うように、「最小限の努力で最大限の効果を狙う」のが筋で、それはあらゆる事項に共通する。こと受験勉強ということになると、物量を大量にこなしてこそというような主張がいまだに繰り返されており、進学校と呼ばれる高校でも同じような方針で生徒を絞り上げている(と僕は感じる)。受験生を含め、何かに挑戦する人が本当にやるべきことは、持続することができさらにはもっとも効果的に実現できる方法を探し求めることであり、それに最大限の努力を払うべきである。合理的で柔軟な思考を持ってことに当たるのが最善であり、そのことを直截的に主張する『でる単』は、今でも輝きを失うことはない。

 なお、CDが付いたバージョン(『試験にでる英単語 CD付』)もあり、こちらの方は『キクタン』と同じような使い方ができるため便利だが、現在品切れ中のようである。

-英語-
おすすめの参考書・問題集①
おすすめの参考書・問題集②
おすすめの参考書・問題集③
おすすめの参考書・問題集④
-英語-
本の紹介『英単語学習の科学』
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本の紹介『英単語の語源図鑑』
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本の紹介『語源でふやそう英単語』
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本の紹介『語源でわかった! 英単語記憶術』
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本の紹介『英語の語源の話』