マンガ古典文学 古事記 壱

里中満智子著
小学館

あまり感じることのなかった
古典作品のマンガ化

 これも小学館の『マンガ古典文学』シリーズの1冊。『古事記』の世界をマンガで展開するという企画である。

 全部で3巻構成になるらしいが、この『壱』では『古事記』の上巻かみつまき中巻なかつまきの途中までを収録している。イザナギとイザナミの伝説から天照大神、大国主、海幸山幸などが登場する神話世界が上巻、神武東征から歴代天皇伝説が中巻ということになるが、本書で扱っているのは神武の子どもの綏靖すいぜい天皇あたりまでである。

 著者の里中満智子は、持統天皇を主人公とした『天上の虹』という作品を描いている他、長屋王孝謙天皇の話なども描いており、こういう歴史物語には並々ならぬ情熱をお持ちのようだ。そういう意味では、古事記のマンガ化にはこれ以上ない適材の作家と言えるかも知れない。実際、作画についてはそれほど不満もないが、どの登場人物も非常に似たような顔で区別できないのはマイナス材料である。それに話にあまり面白味がないのも残念な点。ま、神話だからしようがないと言えばしようがないんだが。それからところどころ作者本人(を模したキャラクター)が出てきて内容について解説を加えたりするのもあまり効果的とは思えなかった。

 さらに追加して言えば、巻末に掲載されている竹田って人の解説(もどき)に、国粋主義的な記述が多かったのもあまり楽しくない。今どきの人々が『古事記』を読まない傾向を嘆き、このマンガがそれを是正する役割を果たすなどと言いながら、「天皇・皇后両陛下が……行幸・啓あそばした」、「(天皇にとって)国民一人ひとりは、我が子同然に大切な存在」などと書かれていたら「今どき」の人は引きます。間違いない。

 普通の人は古典作品をありのままに読みたいと思っているんであって、政治的(しかも右翼的)な匂いを付けようとする試みに対しては反感を覚える。里中満智子のマンガ自体にはそういう匂いは感じなかったが、この解説のせいで純粋な読みものとしての面白さが大いに損なわれたように感じた。こういう解説を加えた編集者の見識を疑う。

-マンガ-
本の紹介『天上の虹』
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本の紹介『長屋王残照記』
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本の紹介『女帝の手記』
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本の紹介『マンガ古典文学 方丈記』
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本の紹介『マンガ古典文学 源氏物語 (上)、(中)』
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本の紹介『マンガ古典文学 竹取物語』
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本の紹介『日本列島の大王たち』
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本の紹介『六国史』