幕末日本探訪記
ロバート・フォーチュン著、三宅馨訳
講談社学術文庫
日記風の記述が多くやや物足りない
1860年に清国と日本を訪れ、植物を収集したプラントハンターの日清紀行。
清国はともかく、日本については幕末期で当時の記録を残した外国人が少ない(そもそも来日した外国人がかなり限られる)ために、幕末期のドキュメントという意味では非常に貴重である。しかも著者は植物の専門家で、日本の植生について外の目から記述しているという点でも大いに期待を抱かせる。
ただ実際に読んでみると、日記の延長みたいな記述が多く、面白いと感じる箇所はそれほど多くなかった。とは言え、1862年に発生した生麦事件をはじめ、外国人に対する(攘夷派による)テロ事件を在日外国人の視点で描写している点は興味深い点で、テロの対象たり得る人間がテロに対してどう感じるかという見方が、緊迫感を伴って描かれている。もっとも著者のフォーチュンは、日本人側の外国への反感に対して一定程度共感しており、そういう意味では著者は開明的な人物だったと言えるかも知れない。またさらには、他の当時の来日外国人同様、日本が開国してやがて西洋のように自然が破壊されることに絶望感を感じているのも興味深い。同時に、商人の立場として開国や通商をどんどん進めるべきとも書いていて、アンビバレントな感覚があったようにも感じられる。
なお著者の専門である植物の描写については、読むこちら側に馴染みのない植物名が多く、ピンと来るものが少なかった。こういう点も本書の退屈さに繋がった。また、清国の描写についてもそれほど興味を惹かれるものはなく、紀行としても物足りなさを感じる。とは言うものの、この時代の(特に幕末日本の)記録自体が貴重で、そういう点で価値があると言うことはできる。
本書の翻訳は1969年に一人の財界人によって行われたもので、今となっては古さを感じさせる記述が多く、決して読みやすいとは言えない。誤訳のような箇所もあり、訳者の労力は評価に値するが、いずれ再翻訳されるべき書ではないかとも思う(需要があるかはわからないが)。