ソクラテスの弁明

プラトン著、納富信留訳
光文社古典新訳文庫

真摯に作られた良い本
ソクラテスの真摯さにも通じる……かな

 これまでたびたび翻訳されてきた、プラトンの代表作『ソクラテスの弁明』が、光文社古典新訳文庫にも登場した。日本の同著翻訳の先鞭を付けたのは岩波文庫版だったが、なにぶん訳文が古い言い回しでわかりにくい。それに比べると、本書はこなれた日本語を使っており、脚注も本文の該当ページ前後に併記されているため、岩波文庫版と比べると読みやすさは格段に上がっている。

 『ソクラテスの弁明』は、ソクラテスが神を冒涜したかどで告発され、裁判にかけられたときに陪審員に対して自身の無罪を主張する場面を描いた書で、基本的には、ソクラテスの弟子であったプラトンの創作である。ソクラテスの主張にもかかわらず、ソクラテスには死刑判決が出され、やがて自ら命を絶つわけだが、その後ソクラテスの主張と彼の思想は弟子たちによってたびたび取り上げられ、書として記録された。プラトン著の本書はその走りである。

 本書は、すべてソクラテスのモノローグであり、読む分には非常に退屈さを感じるが、同時にソクラテスの哲学に対する態度や方法論も紹介されるため、ソクラテス入門としては適した書であると言える。ソクラテスの、神に対して真摯であるべきで、神の意志に従い、不正な知識人の無知を暴き立てて真理を探求するという姿勢が、特に本書の後半部分で明確に描かれる。

 この光文社文庫版では、本文に加え、非常に詳細な解説(60ページに及ぶもの)と『プラトン対話篇』の手引き(こちらも30ページ近い)も付いており、内容をわかりやすくしようという工夫が見られ好感が持てる。これは他の光文社古典新訳文庫でも共通する態度で、出版者の真摯な姿勢が伝わってくる。このシリーズでは他にもプラトンの著作が取り上げられており、本書を通じてソクラテスの思想やプラトンに関心を持てばさらに一歩先に進めるようになっている。グレードが高い本が揃っており、岩波文庫に置き換わる存在になる可能性すら秘めていると感じる。

-思想-
本の紹介『奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業』
-思想-
本の紹介『純粋理性批判〈1〉』
-思想-
本の紹介『この人を見よ』
-古文-
本の紹介『とはずがたり』
-古文-
本の紹介 『虫めづる姫君 堤中納言物語』
-文学-
本の紹介『変身/掟の前で 他2編』
-文学-
本の紹介『白夜/おかしな人間の夢』
-文学-
本の紹介『故郷 / 阿Q正伝』
-文学-
本の紹介『酒楼にて / 非攻』