短歌をよむ
俵万智著
岩波新書
読もうが詠もうが短歌は短歌
歌人、俵万智の短歌論。出版されたのが1993年で、第二歌集が出た後ということになる。『サラダ記念日』で一世を風靡したとは言え、短歌の世界ではまだまだ新人の部類に入っていた時代に、短歌について書いてみた、しかも岩波新書に……ということで、著者にとってはかなり思い切った本ではなかったかと思うが、なかなかよくできている。あるいは渾身の作と言っても良いかも知れない。
「短歌を読む」、「短歌を詠む」、「短歌を考える」の三部構成になっており、本書のタイトルが『短歌をよむ』であることから「短歌を考える」は蛇足のようにも感じられるが、実際当初は2部構成の予定であり、執筆の段階で急遽この章の追加が決まったという。「短歌を考える」の項では、短歌の世界から身を引いた現代歌人について論じているんだが、結果的に著者による決意表明みたいになっており、読んでいて何やら少し気恥ずかしさも感じる。
第1章の「短歌を読む」は、和歌や短歌の鑑賞教室、第2章の「短歌を詠む」は、自作の例から、どのような推敲を経て短歌が作られていくかが示される。第2章も種明かしみたいで面白かった(たとえばサラダ記念日の歌〈「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日〉は、本当のところはサラダではなくカレー味の唐揚げだったとか、日付も7月6日ではなかったとか)が、個人的には第1章の鑑賞教室が一番のお気に入りである。伊勢物語の解説本などでもそうだったが、著者の古典文学に対する洞察が僕には新鮮で、しかも語り口もなかなかうまいため、あの本同様、非常に興味深く感じる。
全体として見るとそれなりにまとまっていて、しかも熱意も感じられるなど、総じて良書ではあるが、僕としてはやはり第1章だけでも良かったかなという気がする。