ドナルド・キーン自伝

ドナルド・キーン著、角地幸男訳
中公文庫

キーン先生の華麗なる交遊録

 日本文学研究者のドナルド・キーンの自伝。

 幼少期に始まり、アーサー・ウエーリが翻訳した『源氏物語』に魅せられ日本に憧れた青春時代、日本語の研究のために海軍(海軍日本語学校)に入隊し、終戦後日本に住むようになるまでを時系列で辿っていく。文章は簡素で非常に読みやすいが、ところどころ意味のわからない文章が挟まっている。おそらく翻訳のせいだろう。

 以前紹介した『ドナルド・キーン わたしの日本語修行』と当然ながら内容は酷似していて、かなり重複している。大きな違いは、こちらの本に、日本の作家をはじめとするさまざまな著名人との交流が描かれている点で、三島由紀夫や安部公房、大江健三郎らとの交流は非常に興味深いところ。日本の文学者については、著者の仕事を考えるとそれほど奇異ではないが、他にもグレタ・ガルボやバートランド・ラッセル、ライシャワーらとも交流があったらしく、どれだけ付き合いが広いんだと思ってしまう。やはりエライ人は付き合う相手もエラいのかと感じるのはこちらのひがみか(実際のところうらやましくはないが)。それでまた、この本によると、そういった人々との付き合いも大変気持ちの良いもので、ひとえに著者の人柄のなせる技かと感心する。

 また、そのときどきの著者の仕事、たとえば『日本文学史』『明治天皇』『百代の過客』などについても、書いたときのいきさつが紹介されていて、大変興味深い内容だったことを付記しておく。『百代の過客』については、内容にいたく関心し、著者に大いに興味を覚えたため、その流れでこの自伝を読んでみたという次第ではあるが、あらためて著者の文学に対する博覧強記ぶりに驚く。この人は生まれながらの文学者だと感じてしまう自分がいる。

-評論-
本の紹介『思い出の作家たち』
-英語-
本の紹介『Chronicles of My Life』
-随筆-
本の紹介『私と20世紀のクロニクル』
-文学-
本の紹介『ドナルド・キーン わたしの日本語修行』
-評論-
本の紹介『日本語の美』
-文学-
本の紹介『日本文学史 近世篇〈一〉』
-評論-
本の紹介『百代の過客』
-文学-
本の紹介『百代の過客〈続〉』
-日本史-
本の紹介『明治天皇〈一〉』
-文学-
本の紹介『日本人の美意識』
-文学-
本の紹介『「ニューヨーク・タイムズ」のドナルド・キーン』
-評論-
本の紹介『日本人の質問』