スマホ失明
川本晃司著
かんき出版
問題提起はともかく
中身は羊頭狗肉
スマホの使い過ぎが将来的な失明をもたらすということを訴える本。著者は眼科医で、子どもの近視患者が近年増加していることを肌で感じそのことを危惧するようになったことから、本書の執筆に至ったらしい。
現在、多くの子どもがスマホを日常的に使っているが、中には依存が疑われるようなケースも多数あり、それが結果的に多数の近視患者を生み出すことになっている。しかもそれが単に近視にとどまらず、失明にまで繋がる可能性があり、いずれはかなりの数の失明患者が生み出される「失明パンデミック」とでも言える状況が生まれると著者は警告している。
そのためには、子どものスマホの使用時間をともかく減らさなければならないが、依存状態を脱却するのは簡単でないため、そこに行動経済学的な発想を持ち込み、スマホ使用の減少と近視対策の導入を推進していこうじゃないかというのが本書の主張である。前半が近視が増えている状況とその危険性についての記述で、後半が行動経済学に基づく対策という構成になっている。
近視と失明というとかなり開きがあるように感じるため、なぜ近視が失明に繋がるのかの解説が一番欲しかったが、それについてはあまり突っ込んだ説明がなく、かなり物足りないという印象である。最近の子どもは眼軸長(角膜から網膜までの長さ)が長くなる傾向があって、それが失明の原因になるという一様の説明はあるが、これだけではにわかに納得できない。眼軸長と失明の間にあまり繋がりが感じられないことから、結局、ネットであれこれ調べるハメになった。それに日本の失明原因の第一位が緑内障であることを考えると、(スマホ原因の)近視が緑内障に直結するかどうかが最大の懸案のような気もするが、それについても本書からは関係性がにわかに見えてこない(ただし本書にはそれを匂わせる記述はある)。こちらもネット情報に頼ることになってしまった(近視と緑内障については関連性は疑われるがよくわかっていないというのが真相のようである)。本を読んでいるにもかかわらず、必要な情報を求めてネットに当たるというのは本末転倒のような気もするが、要するに本書には、一番重要と思われる情報が欠けていたわけである。
そのくせ、聞きかじりのような行動経済学を持ち出して、それを実務に応用していこうという、非学問的アプローチが延々と紹介されていくわけで、少しばかり悪い冗談のようにも思えてくる。学術研究の応用は慎重に行うのが学問的アプローチであって、本書のように思いつきで導入する方法論に、しっかりした実証的な背景があるかのように決めつけるのはあまり賢い方法ではないと思う。やってみる価値はあるかも知れないが。
そういうわけで、本書にはかなりのバランスの悪さを感じるのである。眼科医の著書なんだから、近視や失明の現状分析を第一に持ってくるのが筋である。実証を欠いた付け焼き刃の対策提言は、本来おまけ程度のもので、そちらを滔々と主張するとなると、バランスが悪いと言われても仕方あるまい。問いかけとしてはそれなりに興味深いが、内容が伴っていないわけで、羊頭狗肉を絵に描いたような本になってしまっている。