奥の細道―マンガ日本の古典 (25)
矢口高雄著
中央公論社
矢口高雄の描く芭蕉がイイ!
『マンガ日本の古典』シリーズの第25巻は『奥の細道』。これをマンガに翻案したのは『釣りキチ三平』の矢口高雄。
僕自身は元々『奥の細道』自体にそれほど関心がなく、矢口高雄作ということでマンガとして期待できるかなと思い今回手に取ってみたんだが、予想に反して実にすばらしいデキで、おそらくこのシリーズの白眉と言って良いんじゃないかと思う。
『奥の細道』は、俳人、松尾芭蕉の紀行文で、芭蕉と弟子の曽良が、江戸を旅立って東北に向かい、陸奥、出羽を経由して日本海に沿って南下し、さらに越後、越中、越前を経由して尾張に至るという旅を敢行し、それをまとめたものである。この行程をすべて1冊のマンガにまとめるというのは無理があるということで、本書では出羽路を中心に物語が展開する。出羽路を選んだのは矢口高雄の意向で、「出羽路こそが『奥の細道』そのもの」と考えたためだという(「あとがき」より)。ただこうやって一部だけに取り組んだことが結果的に功を奏し、内容が非常に充実していて、『奥の細道』の世界が見事に描き出されている。矢口高雄自身が元々『奥の細道』に思い入れがあったそうで、そういうことも本作の成功に結びついていると思われる。ところどころ著者独特の解釈も盛り込まれ、それについても本人の記述があって、非常に分かりやすい。当時の俳句界の状況や句の背景なども折に触れ描き出され、『奥の細道』解釈本としても絶品と言える。芭蕉のキャラクターもうまく描き出されていて、魅力的な芭蕉、曽良が躍動する。『奥の細道』には興味がなかったが、この本のおかげで大いに興味を持った。矢口高雄の代表作と言っても良いんじゃないかという快著であった。
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