新編 日本の面影
ラフカディオ・ハーン著、池田雅之訳
角川ソフィア文庫
ハーンの処女作の(比較的)新しい翻訳
ラフカディオ・ハーンの処女作、『Glimpses of Unfamiliar Japan(知られぬ日本の面影)』を翻訳し抜粋した書。この『知られぬ日本の面影』は全27編で構成されているが、そのうちの11編が本書に収録されている。11編は、「はじめに」、「東洋の第一日目」、「盆踊り」、「神々の国の首都」、「杵築––日本最古の神社」、「子ども達の死霊の岩屋で––加賀の潜戸」、「日本海に沿って」、「日本の庭にて」、「英語教師の日記から」、「日本人の微笑」、「さようなら」で、残りの部分は本書の続編(『新編 日本の面影 (2)』)にその一部が収録されているようだ。
多くは、ラフカディオ・ハーンが来日してから松江に滞在し、松江を離れるまでの1年半の出来事を書いたもので、珍しい日本の習慣、風俗に目を留めて、その良さを愛でるというような内容である。
中でも印象的なのは、来日当初の印象を綴った「東洋の第一日目」、「盆踊り」、「神々の国の首都」で、「東洋の第一日目」では日本の寺のたたずまいや自然風景、「盆踊り」では神秘的で幻想的な夜の風景、「神々の国の首都」では松江の朝の風景が、それぞれ詩的に描写されていて感動的である。「英語教師の日記から」、「日本人の微笑」、「さようなら」は日本人との交流、「日本の庭にて」は日本の庭で再現されている自然風景についての描写である。永らく世界と隔絶されていた東洋の島国に残されたガラパゴス状態の文化は、西洋人にとってまったく異質の世界で、そのためもあって反発を感じた西洋人もいるが、ハーンのようにそこに魅力を感じてどっぷりはまってしまった西洋人も多い。確かに、ハーンの筆を通じて伝えられるこの文化は、エキゾチシズムに溢れ非常に魅力的に思える。もちろん今の日本でも馴染みのあるものはあるが、その多くが失われているのも事実で、それはまさに「逝きし世の面影」なのである。
ただ本書では、あまりに日本の文化を礼賛しすぎており、買いかぶりすぎと思われるものもある。そうは言っても、江戸時代の情緒が残る幻想的な風景が魅力的であることには変わりない。
翻訳は平易な文章で書かれており、比較的読みやすい。良い翻訳の部類に入ると思う。