乳幼児ワクチンと発達障害
臼田篤伸著
緑風出版
詳細で説得力のある議論が欲しかった
タイトル通り、乳幼児ワクチンと発達障害との関連性について書かれた本。著者は歯科医であり、専門分野は異なるが、個人的に「インフルエンザ発症の時間医学」の研究などに取り組んでいるらしい(「著者略歴」より)。
内容については、他の本からの引用というか聞き書きみたいなものが大多数を占める。乳幼児ワクチンが発達障害の原因とする説を主張しており、その作用機序についても紹介している(アジュバントをはじめとするワクチン成分が脳に入りミクログリア〈中枢神経系に存在するマクロファージ〉を活性化させて脳神経に障害を与え続けるというもの)が、それの証左となる元々の文献や論文への言及がないため、あまり説得力がない。僕自身は、乳幼児ワクチンあるいは抗生物質が発達障害増加の主要な原因ではないかと感じており、その証拠が明確に示されているデータがないかと思い本書に当たったのだが、本書にはそういった類のデータはなかった。ということで、やはり著者の思い込みとされても仕方がない状態でとどまっているのである。
中盤では、日本で発達障害者が増加している現状、それに対する行政の対応、教育産業の対応、発達障害者による凶悪犯罪などが紹介されていき、日本が「ワクチン先進国」つまり「発達障害先進国」への道をばく進中であることが強調される。もっとも、著者のように、発達障害と凶悪犯罪を直結させることについては、個人的にはあまり賛同することができない。もちろん発達障害者が凶悪犯罪を起こすケースもあり、東海道新幹線車内殺傷事件もその事例として取り上げられているが、著者のこの事件に対する見方が一面的で浅薄に感じる。こういった短絡的なものの見方はむしろ書籍全体のイメージに悪影響を与えるのではないかと危惧される。余計なことは書かず、必要なことだけに絞る、それもなるべく自身の専門性の高いことに絞るのが良書を生み出す原動力になると僕は感じているのだが、結果的にこういった余計な記述が、書籍の価値を台無しにするということも良くある。そういう点で、僕自身は、本書の記述全体に対して疑念を抱いてしまう結果になった。
後半部は、母里啓子の著書(『もうワクチンはやめなさい』、『子どもと親のためのワクチン読本』)や、近藤誠の著書(『ワクチン副作用の恐怖』)、あるいは他の著書の引用が特に目立つようになり、非常に雑誌的で雑多な構成になっていく。他の文献の紹介という意味では役に立っているが、書籍としてのあり方には少し疑問を感じる。ただ、後半部で紹介されていた『危険なインフルエンザ予防接種』(高橋晄正著)という本には大いに興味を持ったため、これはこれで有用だったとは言える。
ともかく、著者の主張に対して反対するものではないが、もう少し詳細で説得力のある議論が欲しかったというのが率直な感想である。もちろん、この本が、こういった分野の研究が進む上でのきっかけになる可能性もあるため、あながち否定はできない。