日本史・古文の勉強に大河ドラマを

 大学入試で日本史を選択する生徒には、簡単な勉強法として歴史ドラマを見るという方法をこれまで奨めてきている。特にNHKの大河ドラマは、割合史実に忠実に作られており、特定の時代の歴史を知る上で格好の存在である。何より登場人物、その多くは歴史上の人物だが、彼らに対して実在の人物であるかのような親近感を抱くことができるために、歴史上の事実について、さながらエピソード記憶であるかのように憶えることができ、結果的にその経緯に対する理解も深くなるというメリットがある。

 NHK大河ドラマは、全般的に時代的な偏りがあるが(戦国時代と幕末が多いなど)、数が多い上、しかも多くはDVDなどで発表されているため、適宜選んで見れば良い。

 大河ドラマに限らないが、NHKのドラマは演出が大げさなものが多く、面白さに著しく欠けるものもちらほら存在し、そのために僕自身も中高生の頃に何本か見て以来、大河ドラマを一生懸命見るということがその後あまり無くなったが、時折非常にデキの良いものがあるため、決してないがしろにできないとは思っている。少なくとも勉強のために見るのであれば、多少のデキの悪さには目をつぶることもできる。最大の難点は、約1年続くという長さであるが、これは同時に利点でもある。1年も見続ければ登場人物のことはかなり把握でき、その周辺についてはマニアックなレベルの知識が身に付くのは請け合いである。

 今年の大河ドラマは、紫式部を主人公にした『光る君へ』というものだったが、ストーリーはともかく、平安時代中期の貴族文化が舞台になるため、日本史の観点からだけでなく、古文学習で非常に有用である。平安文学にしきりに登場する風俗や習慣がそのまま映像化されていたため、リアルな実感が涌く。古典文学を読んでいるときの最大のネックは、当時の風俗・習慣がわからないことで、これは海外の古典作品でも同様。江戸時代ぐらいまでなら時代劇を通じた情報がそれなりにあるため、それほど苦にならないが、平安の宮廷文化は正直わかったようでわからないというのが、多くの人々に共通する認識ではないかと思う。それがわかりやすい形で示されるというのだから見ない手はないと思うのだがどうだろう。

 登場人物も、藤原道長をはじめ、藤原公任、藤原斉信ただのぶ、源俊賢としかた藤原行成、藤原実資さねすけ、藤原伊周これちか、藤原隆家、中宮定子、中宮彰子の他、紫式部、赤染衛門、清少納言、和泉式部、さらにはおまけ的に藤原道綱母や菅原孝標女まで出てくる(当然役者が演技する)ため、古文、日本史の勉強にとっては格好の素材と言うことができる。平安時代は藤原だらけで覚えられないとかつて語っていた生徒がいた(ちなみにその人も藤原さんだった)が、そういう人には持って来いの素材である。

 実はそういう話を周りの高校生諸君には話しているのだが、これまで『光る君へ』を見続けたという生徒は皆無である(やはり面白みに欠けるようだ)。しかもすでに今年の大河は終了しているということで、大きな機会を失ったということになり、大変残念な話である。ただ今週土曜日(2024年12月29日)に総集編を放送するらしいので、こちらを見れば、ある程度は役に立つのではないだろうか。

 機会があったら、ぜひ録画するなどして遠しで見てもらいたいと思う。

  ■ 放送日時:総合、BSP4K 12月29日(日) 12時15分~16時03分
    総集編「一の巻」12時15分~13時00分
    総集編「二の巻」13時05分~13時48分
    総集編「三の巻」13時48分~14時31分
    総集編「四の巻」14時31分~15時15分
    総集編「五の巻」15時20分~16時03分

 なお、付記しておくと、僕自身、今回の大河ドラマ、『光る君へ』の内容についてはやや不満があり、荒唐無稽なストーリー展開もそうだが、『蜻蛉日記』が、当時の辛い女性の声を代弁するために意識的に書かれたフィクションのようなものだというような、強引な解釈をドラマの中で行っていたのは納得がいかない。また、紫式部と清少納言が親しい間柄で始終行き来していたように描かれていたのもやり過ぎではないかと感じた。全体に渡ってやや無理やりな展開が多く、大石静脚本らしいなと思ったりしたのだった。

デキの良かった大河ドラマ

『太平記』(1991年)

  鎌倉時代末期から室町時代初期までの出来事をドラマにしており、主人公は足利尊氏(真田広之)である。

『炎立つ』(1993年)

  前九年・後三年合戦と奥州藤原氏の繁栄、滅亡をドラマ化したもの。三部構成になっているが、第一部、第二部の前九年合戦と後三年合戦の部分が面白い。当時の俘囚ふしゅうと中央政府の関係などもよくわかる。主人公は第一部が藤原経清つねきよ(渡辺謙)、第二部が藤原清衡きよひら(村上弘明)。

 2020年の『麒麟がくる』や2022年の『鎌倉殿の13人』もそれなりにしっかり作られていて、歴史の勉強になった。デキの悪いものもときどき見られるが、それでも歴史の勉強として見れば役に立つものである。

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