とりかえ・ばや (1)〜(13)
さいとうちほ著
小学館フラワーコミックスα
古典の翻案としては最高傑作の部類
平安時代から鎌倉時代にかけて書かれたとされる『とりかへばや物語』のマンガ化作品。
上級貴族のもとに生まれた(女子っぽい)男子と(男子っぽい)女子が、元服・裳着を機会に男女の役割を入れ替わって、女子(沙羅双樹)の方は宮廷に役人として出仕し、男子(睡蓮)の方は(後に)女性東宮に尚侍として仕えることになり、それによって引き起こされる騒動が描かれる。
ストーリーを聞いただけではあまりに荒唐無稽で、物語として成立するのかと思うが、それが実にうまいことまとめられているのがこのマンガ。原作については読んでいないため、どこまで原作に忠実なのか、にわかにはわからないが、このマンガに関しては、ストーリー展開にまったく違和感はない。
しかも帝(現天皇)や東宮(次期天皇)を取り殺そうとする悪僧が登場し、やがてイイモンとワルモンの決戦にまで発展していって、結構ドラマチックな展開になる。最後の方はかなりのスペクタクルで、エンタテインメントとしても一級である。
著者のさいとうちほという人、僕は知らなかったんだが、絵も非常にきれいで、登場人物もしっかり描き分けられているため、他の女流マンガ家の古典作品のように、登場人物で混乱することはあまりない。それにどんどん先に進ませる推進力ものっぴきならないものがあり、かなりの実力者と感じる。日本のマンガ界の層の厚さをあらためて思い知らされる。
全編『源氏物語』の影響が窺われるが、途中、『源氏物語』に対するパロディみたいなものもあり、主人公が「これじゃあ源氏物語だ」みたいに言って笑うシーンなどがあるが、こういうのも大変高尚な趣味である。原作にあるのか、マンガ版のオリジナルなのかわからないが、こういったユーモアが全編漂っていて、それが、この『とりかえ・ばや』を一層価値あるものにしている。宰相中将のような、少しネジの緩んだキャラクターも面白く、全体的にキャラクターが魅力的なのは、マンガ家としての作者の力量に負うところが大きいと思う。この作者には、他にも古典の翻案をやってほしいと思わせるものがある。